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東京高等裁判所 平成6年(う)1439号 判決 1995年12月13日

主文

原判決を破棄する。

被告人両名をそれぞれ無期懲役に処する。

被告人両名に対し、原審における未決勾留日数中各三〇〇日を、それぞれその刑に算入する。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人甲野については弁護人清水良二、同久保貢連名の控訴趣意書に、被告人乙山については弁護人木川惠章作成の控訴趣意書に、これに対する答弁は検察官亀井冨士雄作成の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。

(被告人甲野関係)

控訴趣意第一(事実誤認の主張)について<省略>

控訴趣意第二(量刑不当の主張)について

所論は、要するに、原判決は、被告人甲野に極刑である死刑を宣告したが、右の量刑は、その判断に当たり前提となる事情、特に、本件強盗殺人についての動機、態様、共犯者である被告人乙山との関係等に関して事実を誤認し、評価を誤っているほか、被告人甲野には犯罪性が極めて低く、矯正の可能性があることなどに照らすと、重きにすぎて不当であり、被告人甲野を無期懲役に処するのが相当である、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討するに、本件は、被告人両名が共謀の上、(1)知人である丙川夏子(当時五〇歳)、秋子(当時二四歳)の母娘を殺害して金品を強取することを企て、被告人甲野において、丙川方で、まず秋子に対し、後頭部を所携の金づちで何度も殴打し、さらに包丁で胸部、背部等を多数回にわたって突き刺し、そのころ、同女を心臓及び肺の刺創に基づく失血により死亡させて殺害し、その際、革製ハーフコート一着(時価約八〇〇〇円相当)を強取し、さらに、帰宅した夏子に対し、包丁で顔面、頸部等を多数回にわたって突き刺すなどし、そのころ、同女を右総頸動脈及び右内頸静脈の切開に基づく失血により死亡させて殺害し、その後、現金約一七万円及びキャッシュカード等五点在中の財布一個(時価約一〇〇〇円相当)を強取し、(2)五回にわたり、被告人甲野の友人・知人宅あるいは駐車中の自動車内から現金合計約二万六〇〇円、ネックレス等合計四四点(時価合計約二八九万九五六〇円相当)を窃取した、という窃盗五件と二名殺害の強盗殺人の事案である。

本件各犯行に至った経緯は、原判決が詳細に判示するところであるが、その概要は次のとおりである。被告人両名は、平成四年一〇月末ころに知り合って、互いに恋愛感情を抱くようになり、どちらからともなく二人で沼津を離れて家出をしようということになり、同年一一月七日、被告人甲野の勤務先から現金約八〇万円を盗み出して仙台に向かい、その後いったん沼津に戻って被告人甲野の父親方から預金通帳を盗み出して銀行から一七五万円を引き出し、東京、仙台、名古屋等のホテルを転々としながら、パチンコ等をして遊び暮らしていた、しかし、次第に所持金も少なくなってきたため、空き巣や車上荒らしをすることを思い立ち、被告人甲野において、同被告人の友人・知人宅に忍び込んでは目ぼしい物を窃取し、あるいは、被告人乙山において、駐車中の自動車内から同じように窃取し((2)の各犯行)、窃取した物を質屋で換金するなどして日々の宿泊代や食費等に充てていた、やがて被告人甲野において借金をしたり空き巣に入ったりできそうな友人・知人らも思い付かなくなったことから、一度空き巣に入ってその存在を確認していた丙川方の金庫から現金、預金通帳等を盗み出したいと考えるようになり、同年一二月一六日午前零時すぎころから、二人でその方法を相談していくうちに、夏子が身に付けていると思われる金庫のかぎを奪うなどするしかないが、そのためには被告人甲野は丙川親子と顔見知りであることから(犯行の発覚を防ぐには丙川親子を殺害するほかないとの結論に達し、更に具体的な犯行方法等を話し合った、そして、その日は、被告人甲野において、いったん出掛けたものの、実行を逡巡したため犯行が見送られたが、翌一七日、同被告人は、計画を実行すべく丙川方に赴き、偶然立ち寄ったかのように振る舞って上がり込み、夏子の出勤後、秋子の殺害の機会をうかがうがなかなか踏ん切りがつかず、何度もホテルで待機していた被告人乙山に電話を掛けて状況報告等をし、その際、同被告人から早く実行するよう責められたりするに及び、ついに意を決し、(1)の犯行に及んだというものである。

その情状をみるに、(1)の犯行については、はじめから強盗目的で被害者二人の殺害を企図してそのとおり実行したという、強盗殺人の中でも最も態様の悪い犯行であること、被告人らは、家出して無為徒食の生活を送るうち、金銭に窮したため、丙川方の金庫に目を付け、その中にあると思われた多額の現金、預金通帳等を手に入れようとその方法を思案した結果、実行役の被告人甲野が丙川親子と顔見知りであることから、犯行の発覚を防ぐには同親子を殺害するほかないとの結論に達し、本件犯行に及んだものであって、強盗殺人という重大事犯を敢行するには余りにも短絡的であり、自己中心的も甚だしく、犯行に至ったいきさつ、動機には何ら酌量すべき余地はないこと、犯行の態様をみても、あらかじめ具体的な殺害方法等について詳細に話し合い、丙川親子を気絶させるための道具として金づちを持参するなど、計画性が認められるほか、一緒にこたつに入って漫画を読んでいた秋子に対し、その背後からやにわに金づちで後頭部を殴打するなどした上、台所から持ち出した包丁で胸部等を多数回突き刺して失血死させ、次いで、夏子の帰宅を待ち構え、帰宅した夏子に対し、いきなり首にパンティストッキングを掛けて力一杯引っ張り、倒れた同女の頭部に金づちを振り下ろし、包丁で頸部等を多数回突き刺して失血死させるというもので、極めて残虐かつ悪質であること、しかも、殺害後現金等を強取したものの、目当ての金庫のかぎが見つからず、いったん被告人乙山の待つホテルに戻ったが、同被告人の提案で二人して再度丙川方に赴き、夏子の遺体から発見した金庫のかぎを使い金庫を開けようと試みるなど、被告人両名の金に対するなみなみならぬ執着がうかがわれ、犯行後の行動にも軽視し難いものがあること、二人の生命を奪った本件の結果は極めて重大であること、被害者らには何の落ち度もなく、しかも、久しぶりに訪ねてきた被告人甲野を快く迎え入れ、もてなすなどしていたにもかかわらず、その意を全くないがしろにする凶行を受けて死に追いやられた被害者らの無念さは、察するに余りあること、被害者らの遺族の悲嘆、憤りにも計り知れないものがあり、被告人両名の親族からの謝罪の申入れに対しても固辞し、被告人両名に対し極刑を望んでいる心情は十二分に理解できるところであること、閑静な住宅街で二人暮らしの母と娘が強盗殺人の被害に遭うという、本件の及ぼす社会的影響にも無視できないものがあることなどに徴すると、その犯情はすこぶる悪いといわなければならない。

また、(2)の各犯行については、前示のとおり、家出中金銭に窮して及んだものであり、動機に酌量の余地はなく、また、犯行の態様も、侵入用の道具を用意し、窓ガラスを割って侵入するなど、計画的でかつ悪質であることなどに徴すると、これまたその犯情は芳しくない。

さらに、被告人乙山との関係で被告人甲野の個別的な情状をみると、被告人甲野は、何といっても本件強盗殺人の実行行為者であること、いくら被告人乙山との関係を維持したかったためとはいえ、丙川方に金庫があることなどを同被告人に教えて窃盗の対象として持ち出し、同被告人から夏子を殺害して金品を強取することを持ち掛けられるや、いとも簡単にこれに同意した上、更に秋子をも殺害することを提案するなどし、ひいては自らの手で被害者両名の生命を奪うなど、罪の意識の希薄さには驚くべきものがあること(なお、弁護人は、当審弁論において、被告人甲野には、微細な脳器質障害があり、これがために同被告人の当時の精神能力は一時的に低下していた、また、被告人甲野は、本件当時、被告人乙山から一種のマインドコントロールを受けていた旨主張し、当審における精神鑑定の結果にもその趣旨の記載があるが、微細な脳器質障害の精神能力に及ぼす影響については、精神医学の面でも、いまだ十分解明されたものであるとはいえないこと、また、被告人甲野が被告人乙山に利用されていたと認められることは後述のとおりであるが、被告人甲野の自由意思ないし自主的判断が失われるようなものでなかったことは明らかであり、被告人乙山により心理的に完全に支配された状態であったとの趣旨であるとすれば、失当というべきであって、採用し得るものではない。)、窃盗についても、車上狙いの一件は別として、被告人乙山から空き巣の手ほどきを受けるなどしているものの、すすんで空き巣の対象となる友人・知人宅を選び出し、自らこれを実行するなどしていることなどに照らすと、本件各犯行における役割には大きいものがあるといわざるを得ず、被告人甲野の刑事責任はまことに重大であって、厳しく非難されなければならない。

しかし、(1)の犯行については、確かに被告人甲野は実行行為者ではあるが、被告人乙山に利用されて自ら実行せざるを得ない状況に仕向けられた面がないではないこと、しかも、実行するまでに何度も躊躇し、被告人乙山に電話して経過を報告する中で、同被告人からいろいろ責められるなどして追い詰められ、さらに夏子から秋子に帰宅する時刻を伝える電話があったのを契機として、ついに秋子殺害に踏み切ったなどの経緯があり、また、夏子を気絶させて金庫のかぎを奪った上、同女を脅して金庫を開けさせるといった当初の計画どおりに事が運ばれていないことからも明らかなとおり、必ずしも当初の計画どおりに冷然とこれを実行に移したというものではないこと、残虐ともいえる殺害の態様も、一思いに殺すことができず、いわば無我夢中で包丁を突き刺した結果であるともいえること、被告人甲野は、被害者らの冥福を祈り、また、被害者らの遺族に対し謝罪する気持ちを表していること、(2)の各犯行については、これも被告人乙山に利用された面があること、被害弁償がほとんど済んでおり、特に被告人甲野の友人方での三件の窃盗については、各被害者との間で示談が成立し、被告人甲野に対する寛大な処分を望む意向も寄せられていること、被告人甲野は、被告人乙山よりも七歳年上ではあるが、同被告人を愛するが故に、同被告人を失いたくないとの思いから、同被告人の言うがままに本件各犯行を繰り返していったという面が色濃くうかがわれ、原判決が指摘するような年上だからたしなめる立場にあったというよりは、むしろ、女性特有の弱さから出た犯罪であるといい得ること、被告人甲野は、原審公判において一時、被告人乙山からの働き掛けにより、(1)の犯行に関して同被告人をかばう供述をしたほかは、捜査段階の当初から一貫して、率直に犯行を認め、真しに本件各犯行を反省していること、被告人甲野は、業務上過失傷害罪による罰金刑が一回あるほかは前科等はなく、また、被告人乙山と家出するまでは、真面目に働くなど生活状況に格別問題はなく、犯罪性向が認められるわけでもないこと、したがって、矯正の可能性は十分あること、被告人甲野の母親をはじめ、親族、友人らが、同被告人の更生に協力する旨述べていることなど、被告人甲野のために酌むことができる諸事情を考慮すると、確かに、本件強盗殺人は、はじめから強盗目的で二人の殺害を企図してそのとおり実行したという、強盗殺人の中でも最も悪質な類型に入るものではあるが、前示のとおりの事情も認められることからすれば、同被告人を極刑である死刑に処した原判決の量刑は重きにすぎて不当であり、むしろ、同被告人を無期懲役に処し、終生被害者両名の冥福を祈らせてしょく罪に当たらせるのが相当であるというべきである。

論旨は理由がある。

したがって、その余の控訴趣意に対する判断を待つまでもなく、原判決は、被告人甲野に関し破棄を免れない。

(被告人乙山関係)

控訴趣意のうち、事実誤認の主張について<省略>

控訴趣意のうち、量刑不当の主張について

所論は、要するに、被告人乙山に極刑である死刑を宣告した原判決の量刑は、本件各犯行における被告人甲野との関係、被告人乙山の年齢、矯正の可能性等に照らし余りにも酷であり、重きにすぎて不当である、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討するに、本件の強盗殺人及び各窃盗の犯情については被告人甲野について述べたとおりである。

なお、被告人乙山は、本件強盗殺人について、原審公判では被告人甲野との共謀を否認し、また、当審公判では、被告人甲野の実行行為を現実に阻止しない限り共同正犯としての刑事責任を負うことを弁護人から説明されて理解したから、右共謀の事実を争わないが、自分としては、被告人甲野に、第四回目及び第五回目の電話で殺害を中止するよう求めたにもかかわらず、同被告人があえて殺害を実行してしまったのである、と主張して、自己の積極的な関わりについては依然として認めない態度に終始しており、所論もこれに沿う主張をしている。この点は、被告人両名にとり量刑上重要な事実であるので、事案の重大性にかんがみ、これについて若干説明を付加する。

まず、被告人乙山は、原審公判において、丙川母娘を殺害して金品を奪うことを被告人甲野と話し合ったが、それは冗談のつもりであった、当日、同被告人が丙川方に出かけたのは借金を申し込むためであり、同被告人からの電話も借金に関する内容であった旨供述して、本件強盗殺人の共謀を否認していたが、これについては、原判決が(補足説明)の二で正当に認定説示するとおりであって、被告人乙山の右供述は到底信用することができず、被告人甲野において実行した本件強盗殺人は、被告人乙山との事前の共謀に基づくものであることは明らかであるというべきである。ところで、被告人乙山は、前示のとおり、当審公判においては、共謀の事実は争わないが、自分としては、被告人甲野に、第四回目及び第五回目の電話で殺害を中止するよう求めたにもかかわらず、同被告人があえて殺害を実行してしまったのであるなどと供述を変えている。そこで、この供述の信用性についてみてみるに、被告人甲野が、右二回の電話の内容について、被告人乙山は、「やる、やると言っても、どうせできねえんだろう。」(第四回目)、「ここまでやったんだからおばさんも絶対殺せよ。」(第五回目)などと言ったと明確に、かつ、一貫して供述しており、殺害を中止するよう求められたなどとは一切述べていないこと、被告人乙山から殺害を中止するようにと受け取れるような言葉を掛けられながら、それにもかかわらず、被告人甲野が自らすすんで実行に移すということは、関係証拠により認められる同被告人の行動パターンからしても、およそ考えられないこと、被告人乙山自身、捜査段階では被告人甲野と同様な供述をしながら、原審公判では、共謀のあったこと自体を否認し、さらには、当審公判で右のように供述を変えており、このような供述の変遷の経過をみると、それのみでいかにも不自然であるというほかない上、原審公判で共謀を否認していた理由及び当審公判で供述を変えた理由について述べるところは、いずれも場当たり的でおよそ合理的とはいい難いことなどにかんがみると、被告人乙山の当審公判供述は、原判決で共謀の否認が認められなかったことを受けて、自己の罪を少しでも軽くせんがために考えついた弁解というほかなく、これまた到底措信することはできないというべきである。したがって、被告人乙山が本件強盗殺人に最後まで積極的に関わっていたことは優に認められるというべきである。

そこで、すすんで、被告人乙山の個別的な情状についてみるに、被告人乙山は、本件強盗殺人の実行行為者ではないものの、被告人甲野との計画立案の段階では、丙川方の金庫に狙いを付けた窃盗の話から、順々に話を発展させ、強取の手段としてまず夏子の殺害を持ち出し、被告人甲野から秋子の殺害の話が出るやこれに同調し、具体的な殺害方法、金品の強取の方法、犯行後の逃走方法等について計画を立てる際も、率先してアイデアを出すなど、終始主導的に振る舞い、しかも、自らは手を汚さないようにとの意図の下、被告人甲野が自分に対して強い恋愛感情を抱いていることを奇貨として、同被告人を巧みに利用し、単独での実行を決意させるなど、まことに狡猾かつ卑劣なところがあり、犯行直前の段階でも、被告人甲野からの電話において、挑発したり強く促したりするなどして、巧みに同被告人に対し強盗殺人の実行を仕向けており、また、犯行後の段階では、犯行を終えて戻ってきた被告人甲野に対し、もう一度丙川方に行ってかぎを捜し出して金庫を開けることを提案し、率先してその行動に出ているのであって、一連の流れの中でみると、その役割の大きさは、被告人甲野と同等といい得るものであること、窃盗についても、やはり自らは手を汚さないようにとの考えから、被告人甲野をうまく言いくるめ、その経験のない同被告人に侵入の手口等を教示し、侵入の道具を準備して渡すなどした上、同被告人をして実行させたほか、車上狙いについては自ら実行行為に及んでいること(なお、所論は、本件各犯行においては、被告人両名の年齢差、性格、社会経験の有無・程度等からして、単純に、「男が強く、女は弱い者であって、したがって、女は男に利用されるもの」といった図式は当てはまらないのであって、むしろ、両名の関係はその反対である、と主張するが、関係証拠により認められる、本件各犯行を含む家出以降の両名の行動等に照らせば、被告人両名の年齢差や社会経験は所論のとおりであるとしても、被告人乙山の方が一枚上手であったことは明らかであり、また、このことは恋愛関係にある男女にあっては不自然なことではなく、所論は採用の限りではない。)、さらに、被告人乙山は、中学生の時期から窃盗等の非行に走り、初等、中等、特別の各少年院への入院を繰り返すなどしながら、更生に向かうことなく、特別少年院仮退院後三か月余りで、次々と本件各犯行に及んでおり、その犯罪性向の根深さには相当なものがあるといわざるを得ないこと、しかも、本件の起訴後、被告人甲野に手紙を出して、自分は関係がなかったかのように供述するよう、甘言を弄しかつ執ように働き掛け、公判においても、るる弁解をして自己の罪責を免れあるいは軽くしようとするなど、真しな反省の態度がみられないことなどに徴すると、その犯情はすこぶる悪く、被告人乙山の刑事責任も極めて重大であるといわなければならない。

しかし、本件強盗殺人は、被告人甲野について述べたとおり、強盗殺人の中でも最も悪質な類型に入るものではあるが、なおしん酌すべき事情もある事案であること、被告人乙山は、あくまでも本件強盗殺人の実行行為者ではなく、しかも、被告人甲野を利用していたとはいえ、同被告人の自由な意思をなくするほどに支配していたわけではないこと、本件強盗殺人を行う直前に二〇歳になったばかりであること、被告人乙山の供述態度には前示のとおり問題があるが、その真意をさぐるに、事前に計画を立て、直前にも種々報告を受けてやり取りをしているものの、被告人甲野が女手一つで本当に強盗殺人という重大事犯を実行するだろうかといった思いが片隅にあり、実際に同被告人が実行したことに一面とまどいや驚きがあったことも十分推測されるところであり、このような心理的な背景が前示のような供述になったものであると思われる面もあること、被告人乙山には、前示のような少年時の前歴があり、その犯罪性向には危惧されるものがあるが、重大事犯に手を染めたのは今回が初めてであり、その年齢からいっても、原判決が指摘するようにその矯正は極めて困難であると断じるのはいささか疑問であって、むしろ矯正の余地はまだ残されているといえること、被告人乙山の母親及び義姉が同被告人の更生に協力する旨述べていること、その他被告人乙山の生育歴等、同被告人のために酌むことができる諸事情を考慮すると、被告人甲野について述べたのと同様であり、被告人乙山を極刑である死刑に処した原判決の量刑は、原判決後、同被告人が本件について反省する姿勢を示しつつあり、被害者両名に対し冥福を祈り、その遺族に対する謝罪の気持ちも素直に表すに至ってきているといった事情等を待つまでもなく、重きにすぎて不当であり、むしろ、同被告人を無期懲役に処し、終生被害者両名の冥福を祈らせてしょく罪に当たらせるのが相当であるというべきである。

論旨は理由がある。

したがって、原判決は、被告人乙山についても、破棄を免れない。

(結論)

よって、刑訴法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書に従い被告事件につき更に判決する。

原判決の認定した(犯罪事実)に、その掲げる法令(ただし、「刑法」とあるのを「平成七年法律第九一号による改正前の刑法」と改める。)を適用し、原判示第一の強盗殺人の各罪について所定刑中いずれも無期懲役刑を選択し、以上は右改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四六条二項本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い原判示第一の丙川秋子に対する強盗殺人罪につき被告人両名を無期懲役に処して、他の刑を科さないこととし、被告人両名に対し、同法二一条を適用して原審における未決勾留日数中各三〇〇日を右の刑にそれぞれ算入し、原審及び当審における訴訟費用については、刑訴法一八一条一項ただし書を適用して被告人両名にいずれも負担させないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岡田良雄 裁判官池田真一 裁判官毛利晴光)

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